金子教授の映画学入門 10


  天才の描き方

フォルツァ総曲輪で上映された
「僕のピアノコンチェルト」
学生と一緒に観に行った。
学生たちにも「これならもう一度みたい」と満足度が高かった。
スイス映画なのでスイスドイツ語を学ぶのにもいい。

ビアノの天才誕生に母親は狂気し、英才教育を試みるが
成長のスピードに教師が追いつかない。
七歳年上のベビーシッターに寄せる恋心。
頭と身体がちぐはぐでうまく進行していかない。

心を閉ざした彼を支える祖父との会話がいい。
誰でも昔は子供だつた。でもそれを覚えている大人は少ない。
かじかんだ彼の心を暖め、羽ばたかせてくれた祖父が
最期に家族への感謝の気持ちを手紙に託す。

圧巻は祖父とともに飛行機操縦に取り組むところだ。
今までの足かせをはねのけるように自由に大空を飛ぶ。
いやがっていたピアノのレッスンを
自らの意志で再開するために城に向かう。

観ている者も一緒に爽快感を味わい、
自由への羽ばたきにワクワクさせられた。
ラストの12才の天才ピアニストとオーケストラとの
コンサートはまさに至福の時だ。

さて、フォルツァ総曲輪では、先週は
「呉清源 極みの棋譜」も上映された。
中国福建省生まれで
現在、神奈川県小田原に住んでいる
「昭和の碁聖」と称された呉清源の半生を描く
田壮壮監督の四年ぶりの新作である。

呉清源を演じるチャン・チェンの静謐なたたずまいが、
ワダエミの衣装によって
ドキメンタリー映画のような実在感を生み出している。

川端康成が敬愛し、
『呉清源碁談・名人』(文芸春秋)を著して有名だが、
日中戦争下をどう生きたかはあまり知られていなかった。
今回の映画化で囲碁界の天才が
どのように囲碁の道に精進してきたか
戦争の激動の時代をどう生きたか、
昭和史の一断面を切り取り、見ごたえがあった。

天才といわれる人物の信念と信仰の物語。
観るものの襟を正す映画。
碁盤をまっすぐ見据えるチャン・チェンのまなざし
田監督はそこに人生の真髄を見出すかのようだ。


このような被写体へのアプローチは、
最新上映の「アニー・リーボヴィッツーレンズの向こうの人生」に通じるものがあった。
ジョン・レノンを最後にとった女性写真家リーボヴィッツは、
アメリカを代表する知識人スーザン・ソンタグのパートナーだ。
彼女の影響を受け、写真家として新たな道を切り開いていった。
フォルツァ総曲輪でも上映されれば、
更なる広がりのある視点が育まれるだろう。

金子幸代
研究室URL; http://www.hmt.u-toyama.ac.jp/hibun/kaneko/





2008⁄03⁄24(Mon) 20:20   未分類 | | | ↑Top

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